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程無くして、目当ての外国人を発見した。と言っても、都心から離れた場所に位置するこの空港にやってくる外国人などあまりいないので、発見するのはそれほど難しくはなかった。
その少女はメモにあった通り、太陽のように煌めく長い金髪を一つに纏めており、どこか大人びた目付きの瞳はサファイアのように澄んだ青。デカデカと星条旗のステッカーが貼られている赤いキャリーケース。そして…シンプルな白いTシャツ越しにもはっきりとわかる、ふくよかな2つの膨らみ。あれがアメリカンサイズってやつか。そんな邪念が脳裏をよぎるが、俺はすぐにかぶりを振る。
(まずは声をかけなきゃ。ええと、カンペカンペ…)
俺はその少女に近づきながら、ポケットに忍ばせたメモを探る。しかしその瞬間、俺の体を冷たい風が通り抜けたような感覚に襲われた。ポケットの中にあるはずのメモらしき触感が、いつまで経っても指先に感じられない。どうやら家に置いてきてしまったようだ。昨晩、必死に翻訳サイトで調べて写したというのに。心の中で後悔している内に、俺の足は少女の前に辿りついてしまった。近くだとさほど目線の高さは変わらず、大きな青い瞳が俺を見据える。
「え、ええと…は、はろー?まいねーむいず、ハルト・ヤマモト…。ないすちゅーみーちゅー?」
自分でも引くほど辿々しい英語が出てきた。少女は見るからに訝しげな表情をする。もし英語でまくし立てられたらどうしよう。アイムソーリーで良いのかな。そう考えている内に、その少女は口を開く。
「……下手ですね、英語」
「……え?」
「日本の英語のレベルが低いというのは聞いていましたが…ここまでとは思いませんでした。その程度でよくホストファミリーになろうと思いましたね」
「え、いや、その」
「……まぁ良いでしょう。これから同じ釜の飯を食うというのに、ここで角を立てるのは後々不味いですし」
「釜飯…?いや、ちょっ」
「申し遅れました、私はメアリー・カーターと申します。以後お見知り置きを」
深々とお辞儀をしたメアリーのうなじを見つつ、俺は自分が抱いていた様々なイメージが音をたてて瓦解していくのを感じた。
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