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とある田舎の、とある小さな駅に、これまた小さな列車が停車した。
雪でも降りそうな寒空で、明かりの少ない地表からは星がよく見えた。
列車に乗っていた唯一の乗客である少年は、車両連結待ちと聞き、新鮮な空気を吸おうと車両から出てきた。
十代半ばだろうか。背丈はそれなりにあるものの、顔つきはどこか幼い。厚着をしていて体格は分かりづらい。
駅のホームは、長い年月を思わせるほど荒れていて、ボロボロだ。コンクリートは穴が開いていたり、削れていたりしていて、その隙間からは雑草が生えている。
駅員もおらず、改札も無人。都会では見られないようなセキュリティの甘い駅だ。備え付けの時刻表は黄ばんでいて、長い間手入れされていないせいか、インクが消えかかっていた。もはや文字が読み取れない。
少年の表情に変化はない。当然とばかりに、冷静にその様子を観察する。
「こんばんは」
ふと、どこからか声が聞こえた。少年のものではない。高くて甘い声。少女のそれだ。
少年は声のした方に振り向く。列車からは死角になっているくぼみの、部屋のような場所。そのベンチに声の主は座っていた。
年は少年と同じほどだろう。白いニット帽をかぶった女の子だ。少年よりも防寒具を着込んでいる。
「……こんばんは」
少年は不審に思いながらも挨拶を返した。その時、言葉とともに白い息が舞い上がり、真っ暗な空に消えていった。
「キミは、地元の人かな」
「そう言うアナタは旅人さんかな」
少年の問いに、少女は答えた。先ほどと同じ声。あの声の主はこの少女で間違いないようだ。
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