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「まあね。でも旅人なんてカッコいいものじゃないよ。いいとこ、放浪者かな」
「へえー、放浪かあ。じゃあアナタはどこから来たの? ああ、こっちに来て座って」
少女は半身をずらし、ベンチに空間を空けた。そして、そこを手袋をした手で叩き、少年に座るよう促した。
少年は一瞬戸惑う様子を見せたものの、ゆっくりと少女に近づいて、その隣に座った。
「ぼくの前に、キミのことを訊いてもいいかな」
「えー……。まあ、いいよ」
少女の口調は軽い。見知らぬ少年に対して全く臆していないし、警戒もしていないようだ。まったくの無防備っぷりに少年は疑念を持った。
「キミは、なんでこんな夜中に、こんなところにいるんだい?」
少女は荷物らしきものを所持しているようには見えない。身一つ、防寒具だけだ。
極寒の深夜に、たった一人で無人駅にいる状況は異常である。
しかし、真剣な面持ちの少年と対照的に、少女はケロリと口を開く。
「特に意味はないよ? ただ、なんとなく外に出たかっただけだし、一日に二本しかない列車の一つが来るから、誰かと会わないかなと思って」
「……こんな夜中に、キミみたいな女の子が一人でうろつくのは危ないんじゃないのかい?」
「あははっ。アナタ、やっぱり都会から来たんだね。大丈夫だよ、ここは余所者が来ないようなド田舎だから。会うのは顔見知りだけなの」
山林に囲まれた小さな村では、自然的な隔たりによって一種の閉鎖空間が生まれる。逆にいえば、その中は自分の庭のようなもの。
「ふうん。まあ、ぼくは確かに都会から来たよ。都会ってほどでもないけど、そこそこ大きな街。大抵の店はあるような規模のね」
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