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「へえー、都会でも規模とかあるんだね。この村からしたら、どこも都会だと思うんだけど」
「そんなことないさ。ぼくの住んでいる街から少し離れたところは、山のような高さのビルが林のように建っているし、地下は蟻の巣みたいに地下鉄が走ってる」
「ホント? 本の話じゃなくて?」
「現実の話だよ。ぼくもそこに住んでいるわけじゃないから、何回かしか見たことないけどね」
少年はかつて家族と旅行した時のことを思い出す。きれいに整備された道路と、芸術的なオブジェ、人が溢れかえるスクランブル交差点。幼き日の少年は、その新鮮さに興奮を覚えた。
「それで、アナタはどうしてこんなところに?」
少女の問いに、少年は顔をわずかに歪ませる。
「さっきも言ったけど、放浪だよ」
「一人で?」
「放浪は一人でするものだよ。誰かと一緒だと、目的や意味を持ってしまうからね」
「目的、ないの?」
少女は訝しく目を細める。
「明確なものはね。ただまあ、一番近いのは現実逃避かな」
「現実逃避?」
「疲れたんだ、人間関係に。人が密集するところは、ぼくにとって窮屈でね。人が嫌いってわけじゃないんだけど、そんな空間に居続けると、それを壊してしまいたくなる衝動に駆られてしまうんだ」
「ふうん……。都会も大変なんだね」
少女の合いの手に、少年は嘲笑混じりの声を漏らす。
「違うよ。単にぼくが弱いんだ。傷つくのが恐くて、失うのが恐くて――だったら最初から無い方がいいんじゃないか……ってね」
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