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「あ、人間強度が下がるってやつ?」
「あの小説知ってるんだ。一番好きな小説ってわけじゃないんだけど、妙にその言葉が突き刺さってね」
「でも、あの小説の主人公って最終的に……」
「そんなうまくいくわけないよ。ぼくには吸血鬼に命を捧げる勇気もなければ、誰かを救おうなんて正義感もない」
少年の脳裏に忌々しい過去が浮かんだ。助けを呼ぶ女の子を、見て見ぬふりしかできない自分。
「結局のところ、ぼくは無力なんだ。この放浪の資金だって親から貰っているものだし」
「あー……。まあ、誰にでも悩みとかあるんじゃないかな?」
少女は困ったように少年を励ました。そして、冷めた顔をする少年を覗き込みながら重い口を開いた。
「……私もね、小さい頃は結構な都会に住んでたんだ」
「?」
少年は体を一瞬震わせ、目を見開いた。少女は遠い目をして電車の方を見ている。
「私が小学校に入る前にね、親がいきなり離婚しちゃって。私はお母さんに引き取られて、お母さんの生まれ故郷の、この村に引っ越してきたの」
「そう、なんだ」
突然の告白に、少年は固唾を飲む。そして少女の言葉を待った。
「幼かった私は遠足か何かかと思ってたんだけど、一ヶ月もしないうちに事の重大さに気づいてさ――お父さんがいない毎日に違和感があって。生活自体も、家や食べ物は変わらなかったけど、店や交通なんかは一変……違う世界に来た気分だったの」
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