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「ッ……!」
少年の口からは、声にならない怒気しか漏れでない。気の利いた言葉も、少女に向ける顔も、少年にはなかった。
少年は無力で――卑小だから。
「ありがとう。こんな私のことを心配してくれて。でも、これが私の運命だから」
「運命……」
――ジィリリリリリ……。
少年の呟きのあと、かすれたベルの音が駅に響いた。
「そろそろお別れの時間みたいだね」
「……うん」
「暗いよ! 私は涙の別れなんて嫌だよ? 笑顔でまた会おう、っていうのが好きなの」
少女は立ち上がって少年の腕を引っ張った。少年は驚いてそのまま腰を上げてしまう。
「ほら、アナタにはアナタの未来があるでしょ! 今がどんなに苦しくたって、それがずっと続くわけじゃない。だから、放浪してその答えを探してるんだよ! 現実逃避でも、なんとなくでもなく、アナタの本心がそれを望んでいる――私はそう思うの」
ニカッと、少女は白い歯を見せる。不安も恐怖も感じさせない、太陽のような笑顔に少年は言葉を失う。
絶望的な未来を前に、なぜ少女はこんな屈託のない笑顔ができるのか、少年にはまったく理解できなかった。
「キミは、どうしてそんな……」
――そんなに、強いのか。
「強くなんかないよ」
「えっ」
腕をつかんだまま、背後の少年に少女は言う。
「私も同じ。でも、私はアナタと違って、全てを諦めたの。考えることをやめて――ただ約束された運命にすがった」
か細い少女の手が、肉付きの薄い少年の腕を強く握る。少年はその痛みより、哀しい少女の背中に意識を奪われていた。
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