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「あいつがいなくなったんだ」
ひとしに表情はなかった。
「いなくなった?」
それはこの部屋からだろうか。
だとしたら
「自分の家に帰ったんじゃないですか?」
彼も何度か足を運んだあのマンション。
それはもはや、誰のマンションだかわからないが。
「合い鍵は持っているんだ………いなかった。あいつの友達関係も知り合いも、全員把握している。誰に当たってみても行方不明だよ」
少しだけ、ほんの少しだけひとしは寂しそうだった。
「じゃあ実家に」
そう言い掛けた時だった、急に体が宙に浮いた。
「え?」
体が固まり、身動きがとれなくなった。
(な!……なんだよこれ!)
金縛りのように動かない体。
立ったまま、動けないでいるとちらりと隣りを見た。
「ひとし……さん」
「康介君!!」
ひとしと呼ばれる男も、同じように動けないのだ。
「「うわ!!」」
誰かが無理やりどこかへ連れて行こうとする。
誰かが。
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