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「榛原君、防衛学院行きたいんだ…。お母さんは、なんて?」
「好きにしていい、って言ってくれた。寮生活なら俺の食事とか学校行事の心配しないで仕事できるし、俺も楽だし」
「そっか……」
2025年、秋。
とある区立小学校の空き教室のテラス。教育実習で出会った男子生徒、榛原魁人と実習生の桑野雫は並んで座っていた。
魁斗は、子ども達からは名字をとって「ハル」と呼ばれていた。前の学校ではそう呼ばれていたということで。
転校してきて一時は馴染んだように見えたが、学年が上がるにつれ不登校気味になったという。
だが、なぜか実習生の自分とは気が合った。学校に来た時は保健室とこのテラスが彼の居場所らしい。
「そっか…でも、大変だと思うよ。軍人になりたいの?」
「たぶん…いや、まだわからないかな。居場所が欲しいだけかも。そんなこと言ったら落とされるよね?」
「大丈夫よ。全員が全員軍に入るわけじゃなくて医者や研究者になる人もいる」
雫はふと、兄はどうしてそういう道を選んでくれなかったのだろう、と思った。
西の空が赤く滲んで揺れていた。
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