Prologue

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「軍は…大変だと思うよ」 「わかってる」 ううん、あなたにわかるはずがない。 その言葉をようやく、雫は飲み込む。 雫には、数ヶ月後の4月、この子が訓練服に身を包んで軍事教練を受けている姿など想像できなかった。 『下校時刻の五分前になりました。下校の準備をしましょう』 東京都のごくありふれた区立小学校の夕暮れ。音質のあまりよくないスピーカーから「家路」の音楽に続いて、放送委員の子なのであろう。 声変わりしきっていない高学年男子の、原稿棒読みのアナウンスが流れ、雫とハル、二人だけが残っているテラスはしばし、夕焼け色の光と牧歌的な空気に包まれる。
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