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私が眠り通しているのは何かの呪いではないかと思い、国中に御触れを出した。
『この国の姫が眠りの病に罹った。それを、治す者がいたならば、姫と結婚してもいい』
そんな御触れを出すものだから、私の安眠は、ますます妨害された。
目覚ましの効果がある薬を飲ませようとする医者。人を起こすことができる音楽を奏でる合唱団。耳元で執念深く「起きろ」と呟きを繰り返す者。ついには、キスで私を目覚めさせようとする下心丸出しの隣国の王子まで現れる始末だ。きっと、呪いや病気は建前が、父が私を起こそうとした計画なんだろう。
私は寝ることが趣味なだけでなのに、その趣味を妨害されるのは嫌だった。そこで、父に言ってやった。
「これ以上、私の安眠を妨害するなら、行事にも参加しないわよ」
私がそう言うと、さすがの父も黙り込んでしまった。
眠りが趣味の私でも、王族としての義務は弁えていた。眠りの合間をぬって、庶民の前に顔を定期的に出していた。
もし、王族の者が行事に全く出席しなくなったら、国の威信にも関わる重大な問題に発展することを私は熟知していた。
これで、父も諦めてくれるはず。ところが、
「分かった。だったら、最後に一回だけ、お前の眠りを治すのをやらせてくれないか?」
「分かったわ。一回だけよ。それが、失敗したら、もう私を無理矢理にでも起こそうとするのはやめてね」
そう言って、私は自分の部屋に戻るとベッドで横になり眠り始めた。少しして、部屋の扉が開く音が聞こえてきた。私は細目で、誰が入ってきたのかを確認しようとした。どうせ、父の最後の足掻きだ。それを見届けるのも悪くなかった。
入ってきたのは父でも、躾係でも、王子でもなかった。真っ白なコートのような服を着た男性であった。
「これは、これは随分と深い眠りにつこうとしてますね」
男性は私の顔を覗き込むなり、そう言った。私は無視して眠ろうとした。
「さて、そろそろ、時間ですし起きてもらいますか」
男性はそう言うと、怪しげな赤と黒の二本の線を私に近付けてきた。
バチリと、私は何かのショックを感じて意識を失った。
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