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ゆらゆらと水中に差し込む日の光が、冷たい水を宝石のように輝かせている。
頭上に浮いているのは、可愛らしいリボンのついたテディベアと、毛糸の帽子。
力の抜けた身体は、ゆっくりと、ひどく緩慢に水底へと沈んでいく。
「リラ」
声がした。知った声。君なの?
「君は何を望むの?失くした声?そういえば君は人魚姫のお話が好きだったね。素敵な話じゃないか。今の君はまるで人魚姫だ」
人魚姫?そんなわけない。人魚なら、この刺すように冷たい水の中を飛ぶように自由に泳げるはずだ。今、私の身体は当てもなく揺られて沈んでいくだけ。
「声を失くした代償に、君は王子様の命を救えたかい?」
私は......。手を水面に向かって伸ばす。だんだんと辺りが暗くなる。
「君は人魚姫のように、その命を捨ててまで愛する人を救えるかい?」
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