華桜街

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「蝶尾はん 蝶尾はん」 我儕(わなみ)を呼ぶ声がする。 あの声は同じ新造友達の小赤さん。 嗚呼、そう言えば もう直ぐ揚げ屋に向かう時間だ。 今日は珍しく稽古が入っていなかったから、掃除や雑用やらを終わらせて自室でのんびりと過ごしていた。 毎日目の回るような忙しさだから、たまにはこういうのも悪くは無いと思った。 で、気付けば夕刻だ。 もそもそと着替えを済ませ、 出掛ける支度を始めようと一歩踏み出した途端。 襖が開いた。 「蝶尾はん?入りますぇ。」 くすくすと笑う姐さんと共に小赤さんも入ってきた。 と、我儕を眺めて言った。 「ごめんやす。 あら?もう準備出来てたんやね。」 「あぃ。 さっきからさんに散々さん言われんしたから。」 言うと、ぷうっと頬を膨らませて小赤さんが姐さんに言うのだ。 「だって、姐さん。聞いとくれやす。 蝶尾はん、今日は稽古も無かったさかい、やる事終わった後は半日ボーッとしたはったんどすぇ。 そやし、揚げ屋に行く準備とか忘れたらあかん思て、わてが何遍も言うたんどす。 せやけど、忘れてへんかってえかったぁ。」 「そやったんか。 ふふ。蝶尾はん、稽古があらへん言うても、気ぃ抜いたらあきまへんえ。」 「申し訳ありんせん。気を付けます。」 「ん。えぇよ。」 注意しつつも、姐さんは笑って許してくれる。 と、窓から涼しい風がはいって。 戸を開けっ放しにしてたのを忘れていたようだ。 慌てて閉めに行く。
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