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閉めるついでに、何気なく外を眺めてしまった。
夕焼けに照らされ、毎日見ているこの花街、“華桜街(ファインジェ)”が違う場所に見える。
もう直ぐ日も落ちて、本当の花街に姿を変える。
夢を売る非現実的な世界になるのだ。
その世界を作り出しているのがこの街全体を隔離する巨大な外壁。
ここに住む者達は、あの壁の向こうに出る事は決して赦されない。
「蝶尾はん?」
中々窓を閉めない我儕を心配して、姐さんと小赤さんが近寄って来た。
「あ、すみません。」
慌てて窓を閉める。
ふぅ、と思わず溜め息が漏れた。
「どないしはったん?」
「ねぇ、姐さん。あの壁の向こうは、どうなっているんで御座いんしょうか?」
「さぁねぇ。わてらにも判りませんよって。」
姐さんも小赤さんも困り顔で我儕を見つめる。
「そうで、ありんすよね。」
自分でもよく判らなくなったので困ってしまう。
でも、姐さんが続いて言った。
「せやけど、わては…あの向こう側には、出たいとは思わへんけどね。」
「何で?」
小赤さんが聞くと
「さぁねぇ。
ほら、そろそろ揚げ屋に行きますえ。
お客はん待たせたらあきまへん。」
誤魔化すように部屋を出て揚げ屋に向かって行ってしまった。
我儕と赤さんは、慌てて姐さんの後を追った。
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