華桜街

3/12
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
閉めるついでに、何気なく外を眺めてしまった。 夕焼けに照らされ、毎日見ているこの花街、“華桜街(ファインジェ)”が違う場所に見える。 もう直ぐ日も落ちて、本当の花街に姿を変える。 夢を売る非現実的な世界になるのだ。 その世界を作り出しているのがこの街全体を隔離する巨大な外壁。 ここに住む者達は、あの壁の向こうに出る事は決して赦されない。 「蝶尾はん?」 中々窓を閉めない我儕を心配して、姐さんと小赤さんが近寄って来た。 「あ、すみません。」 慌てて窓を閉める。 ふぅ、と思わず溜め息が漏れた。 「どないしはったん?」 「ねぇ、姐さん。あの壁の向こうは、どうなっているんで御座いんしょうか?」 「さぁねぇ。わてらにも判りませんよって。」 姐さんも小赤さんも困り顔で我儕を見つめる。 「そうで、ありんすよね。」 自分でもよく判らなくなったので困ってしまう。 でも、姐さんが続いて言った。 「せやけど、わては…あの向こう側には、出たいとは思わへんけどね。」 「何で?」 小赤さんが聞くと 「さぁねぇ。 ほら、そろそろ揚げ屋に行きますえ。 お客はん待たせたらあきまへん。」 誤魔化すように部屋を出て揚げ屋に向かって行ってしまった。 我儕と赤さんは、慌てて姐さんの後を追った。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!