華桜街

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我儕達は今、揚げ屋に来ていた。 今日の場所は我儕達の置屋からはそう離れていない場所だ。 廊下を歩きながら、お客さんについての話をしつつ、指名が入った部屋に向かう。 「ねぇ、姐さん。今宵のお客はんはどんな方何でっしゃろか?」 「ん、せやね。今晩は確か、お医者さんやて聞いてます。」 「じゃあ、何時も姐さんを指名して下さる旦那さんでござんすね?」 「せや。」 優しい笑みを向けて我儕と小赤さんに答えてくれる。 姐さんに嫌味が無い。 それでいて何時も冷静で、頭も良くて器量も良い。 新造である我儕達の面倒を見てくれている。 我儕も小赤さんも、そんな姐さんが大好きだ。 だからこそ、指名して下さる旦那さんも多いのだろう。 我儕がもし旦那さんの立場なら、間違い無く姐さんを指名していると思う。 そんな事を巡らせていたら、姐さんが悪戯な笑みを浮かべて我儕に言った。 「あの旦那はんは、実は蝶尾はん目当てで来てくれてはるんえ。」 「…え?」 我儕と小赤さんは顔を見合わせてキョトンとする。 「そっ…それは、真で御座いんすか??」 「ほんまどすえ。 ふふ。その内、「見受けしたい」なんて話になったらどないしまひょ?」 その言葉に思わず俯いてしまう。 「姐さん…。」 小赤さんも不安そうに姐さんを見つめる。 流石にからかいすぎたと思ったのか、姐さんが慌てて否定した。 「嘘嘘。冗談や。ほんに、二人とも可愛いらしおすなぁ。 ちょっとからかっただけやったんやけど、真に受けてしもたみたいやねぇ。 すんまへんどした。」 「もぅ!姐さん!!」 「ほんに、心臓が飛び出るかとお思いんした。」 冗談だと分かり安心する。 だって、我儕が見受け等有り得ないから。 そもそも花魁にさえなることは無い。 お客さんに、手さえ触れさせた事すら無いのだ。 何故なら我儕は…
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