華桜街

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何故なら我儕は この置屋… 女の園で唯一の“男の子”だから。 だから此処、華桜街を出る事なんて万に一つも有り得ない。 これからも、この生活が一生続いていくと思ってた。 それが我儕の定めだと思っていたから。 だから、まさか外の世界を知ることになるなんて想像すらしなかった。 「お晩どす。」 「何時も呼んで下さっておおきに。金魚屋の花房どす。」 「新造の子赤どす。」 「同じく、新造の蝶尾と申しぃす。」 呼ばれたお座敷で旦那さんに挨拶を済ませ、お酌をする。 今宵の旦那さは診療所の病院長さんで、花房姐さんや我儕達を贔屓にして下さってる方だ。 名前は “紙終 椿” 先生。 まだ若くて、年の頃は姐さんと変わらない位か、それより少し若い位だろうと思う。 それなのに自分の病院を持っていて凄い。 唯、見た目はとても医者にはみえないけど。 「花房、今日も美しいなぇ。」 「まぁ。相変わらずお上手やねぇ。」 「お世辞じゃありませんよ。僕の本心です。」 「ふふ。そう言うことにしといてあげまひょ。」 姐さん先生は楽しそうにお話してる。 「今宵は何を致しましょ?旦那さんお一人やさかい、一曲奏じましょか?」 「そうですね。じゃあ聴かせて貰いましょうか?小赤さんや蝶尾さんもどれだけ上達したか気になりますし。」 「ふふ。分かりました。小赤はん、蝶尾はん。始めまひょか。」
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