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襖が開き、そこには番頭さんが座っていた。
「すみません、花房さん。逢状がかかってます。
どう致しましょ?」
どうやら花房姐さんに逢状がかかってしまったようだ。
姐さんは座敷持で人気のある花魁だ。
だから、お客さんが重なる事なんてしょっちである。
その場合、旦那さん達を待たせる事になる。
待ちくたびれて怒る旦那さんがいると、正直面倒だし、何より置屋の名前と姐さんに泥を塗る事になってしまう。
だから我儕達新造が、話し相手になったりして姐さんの代わりを努めなければならない。
「あら、そら困りましたなぁ。」
姐さんが困ったように番頭さんに言う。
「しかも、お客はんが重なってます。」
「そうどすか。それは、仕方ありまへんなぁ。ほな小赤はん、蝶尾はん。
お二人共すんまへんけど、少ぅしのだけ間それぞれ名代を努めて貰えますやろか?
わても頃合いを見て旦那はんの所に行きますさかい。
そやし、頼んます。」
苦笑いを浮かべ、我儕達に申し訳無さそうに言った。
「「あぃ。」」
「姐さん、任しとおくれやす。」
我儕も小赤さんも笑顔で答える。
そして、それぞれ 花魁・花房 を待つ旦那さんがいる座敷に向かうべく、今の座敷を後にした。
だが、この直後がまさか、自分の運命の歯車が大きく廻っていく鍵になるとは、この時は思いもしなかった。
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