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子赤さんとは、姐さんを待つそれぞれの旦那さんの相手をするため別れた。
子赤さんはさっきまでいた一階の奥にある座敷に行ってしまった。
我儕は今二階にいる。
此処は、二階も下と同じ様な構造をしているので、感覚が狂いそうになってしまう。
因みに、華桜街の街並み全体も華桜街にある揚屋も、置屋も全てがお客さん達が現実を忘れられる様な造りになっているのだ。
だから、この街を訪れた人は言う。
“全ての感覚が媚薬漬けにされたような心地になっていく” と。
そんなことを思い出しながら足早に歩き、番頭さんに指定された座敷の前まで来た。
「今晩は。花房姐さんの名代で参りんした、蝶尾と申しぃす。
宜しくお願い致します。」
旦那さんの待つ部屋の前に座り、先ずは挨拶をする。
「…入れ。」
と素っ気ない返事が返ってきた。
了承を得たので襖を開ける。
部屋にいた旦那さんと目が合った。
我儕は、言葉を失った。
そこにいたのは、自分と同い年位の少年だった。
しかも、軍人。
年ににあわず地位は高いのだろうと思う。
國軍の事は殆ど解らないけれど…
彼の放つ空気でそう感じてしまった。
それに何よりも、その容姿に目が行ってしまう。
彼は、美しい濡羽色の髪に整った顔立ちをしていた。
さらに、強い意志を宿しているであろう紫の瞳を持っていた。
(こんな御方は…初めて見た…。)
思わず見惚れてしまっていた。
「おい…。何時までそこに座っているつもりだ?」
「…あ。」
彼の言葉で我に返った。
暫く見つめてしまっていた所為か、此方を見つめる彼の瞳が少し不愉快そうに揺れている。
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