落下物

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窓辺で村井しげは軽快なリズムを立てながら爪切りをしていた。 伸びきった爪を切るのは実に楽しい。残るは左指の五本。 少し部屋が暗くなり、足が見にくくなった。 雲でも差したのかと思い爪切りを中断する。 日が落ちた夕方ぐらいの暗さになり、徐々に暗さが増していると感じ始めた。 もう、そんな時間かと時計を見ると午前十時十二分を指していた。 上から闇が迫っている。 しばらくしなて窓の外も家の中も黒一色になった。 残光もなく目の前すら見えない。 手探りで天井から吊るされた照明の紐を探り当て、引っ張る。 パッと部屋が明るくなった。 その時、チャイムが鳴った。しげは玄関に行くと鍵を開けた。 チャイムを押したのは町の老人会友達で近所の水元トヨだ。 トヨは懐中電灯を持ち、自分の顔を照らしていた。 そのトヨの顔がすこぶる悪い。 「どうしたの?」としげが聞くと トヨは「この世の終わりよ」と答えた。
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