序、黒よりも澄んだ

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喧騒はもう、聞こえない。声を出すことも、辺りを見渡すことも、もう何も出来ない。 僕は、何をした。 あなた達に、何をした。 声は上げなかった、必死に耐えていた。悔しかったから。悲しかったから。僕は本当に何もしていないんだ。そう、僕は。 (…もしかしたら、何もしなかった罰なのかもしれないな。) 僕は頭の片隅でそう自重しながら、最後にあらん限りの殺気を辺りへ放ち、息絶えたのだった――…。 ここは円から外れた道の途中。 長く、長く、延々と続く道なんだ。 ここへ来てしまったら最後、もう僕にはどうすることも出来ない。戻れないし、何より歩いてきた道はどうやったって見当たらない。そもそも道と言えるものさえないんだ、当たり前だろう。彼女に会うしか、方法はないのだ。歩き始めてどれほどの時が過ぎたろう。僕には見当もつかないが、ここは時間という概念がないため、まあ当たり前なのかもしれない。現に腹も減っていないし、疲れだって感じない。このまま歩き続けるくらいならいっそのことここで特訓したいなあ、ダメかなあ、なんて考えていると、思いが通じたのか、ぼんやりと辛うじて見える程度に光る道のようなものが目の前に突如現れた。 (彼女にまた会えるのかな。) 淡い期待を胸に抱き道を行く。 進むにつれ、強くなる光。僕の気分もそれに比例して浮上していく。期待が確信へと変わる。ああ、楽しみで仕方がない。彼女は何も変わってはいないだろう、あの頃のまま、あの姿のまま、王座に鎮座しているのだろうな。あれこれ想像をして楽しむ。自然とにやけている自分に苦笑するが、どうすることも出来ない。彼女に会うのは何年ぶりか。もうかなりの年数が経つ。なんたって、 「ここは、死者しか来ることの出来ぬ道だからな。」 。
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