序、黒よりも澄んだ

4/4
前へ
/4ページ
次へ
…あ。あ。 感動の喜びと、いきなり現れたことに対する驚きとが相まって、なかなか声を発することが出来ない。彼女は、少し変わっていた。以前は、座ってしかいられなかった筈だ。それなのに今は、僕の目の前に、きちんと自分の両足で立っていた。 ――――嬉しくて仕方がない。 「あーちゃん!」 がばっと抱きつくと、あーちゃん…ことアハト・ディレクトールは、困ったような表情を見せながら僕の背中に優しく腕を回し、抱きしめ―――― ――――てくれたら良かったのになあ…! 回された腕は僕をしっかりと拘束しそのまま背を後ろへ反らしジャーマンを決めてくれた。一体どうしたらその背丈でジャーマンをキめられるのだろうか。あーちゃんの身体能力も然ることながら、僕のあまりの弱さと不運さに涙が出てきそうになる。 「あ、あーちゃっギブギブぎぐぇえッ!」 ジャーマンの体勢のまま、無数の魔法を僕にぶつけるあーちゃん。あーちゃんはね、強いんだよ。だからね、さすがに僕でも…これは受けきれない、かなー…あはは。 「あー、ちゃ…ッグボェ」 「え…えっ!?あ、あ、すま、すまん!」 我に返ったあーちゃんはやっと力の加減を間違えたことに気がついたようで、すぐに回復の魔法をかけてくれた。優しすぎて涙がでてくるよ…うん。…本当だよ?
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加