失笑

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 奥村夏樹。俺が中学2年の時に隣同士になった子。読書好きで物静か。友達はあまり多くはなかったがクラス皆に慕われていたお姉さん的な感じの子だった。おっとりしている様に見えたがしっかり芯の通った子でもあった。二人で並ぶ少しだけの時間に色々と話をした。  他愛のない事を繰り返しているうちに俺は気付いた。彼女はいつも聞いてばかりで自分の事をあまり話さない。不思議に思ってその事を訊くと「私ね小野くんの話、好きなの。だから聞いてるんだよ」と小さく笑った。  どきっと体が熱くなった。女の子の笑顔で初めて可愛いと思った。その事を帰り道、孝宏に言うと「告白してみたら? 潤、学年問わず告白されて断ってるんだから、たまには自分から告白して断られて今までどんなに自分が酷い事をしていたのか痛感するのもいいと思うよ。玉砕するならその…奥村さんって子に振られた方が傷は浅いんじゃない?」と満面の笑みで答えられたのでボディに一発、正義の鉄槌を下した。  断るのは自分が好きではないからだ。好きでもない子とは付き合いたくない。偉そうな事をいう様だが想いのない俺といても楽しくないと思う。その子が可哀想だ。衣替えが春から夏へ、夏から秋に替わった頃、俺は彼女を放課後の図書室に呼んだ。
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