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部屋に着いて幾島さんに礼を云うと
『天璋院さまと2人でそなたの詮議をおこなったまでのこと、そして市中に放っては置けぬと判断したまでのこと、礼には及ばぬ…今宵はもう遅い、お休みになられよ』
幾島さんの優しくぶっきらぼうな苦しい言い訳が有り難く
でも、ありがとうなんて口に出すと『くどい!』なんて怒鳴られそうなので、ハイとだけ応えた
「あの…」
ちょっと気になることがあり、質問しようとすると、まだ何かあるのかと一睨みされ若干怯むが…
「車…目立つと思うのですが、あのまんま置いてて大丈夫すか?」
ハッと気付かれた幾島さん
『むぅ…それは少し厄介じゃな…では、隠しに参ろうか』
えっ…参ろう?
幾島さんは部屋を出て、車のある枯山水の庭へ
ずんずんと進み、車の傍らに立つと
『私が行かぬと、どこに隠せばよいか判らぬであろう!』
早く私を乗せろと急かされた
苦笑いしながらドアを開け、しぼんだエアバックを片付けると、幾島さんを助手席に乗せてエンジンを掛ける
ハヒューン
ピロッキュルキユル
コクピットのアナログ感と、3Dデジタル表示のミスマッチが絶妙な塩梅だ
『裏へ回れば人の目には着きにくくなるはずじゃ、渡り廊下の軒下にでも留め置いておけば、目立つこともあるまい』
早速そこへ車を廻す
ハンドルを切って旋回するたび、踏ん張り方の分からない幾島さんが左右に揺れ、少し怖いのかギュッと掴まれる
…かなり痛い…(;∀;)
ちょうどよい場所を見つけ、車体を収める
そういえば、この車の荷台には何が入ってるんだろう?
茶褐色のトノカバーで蓋をされた荷台
どうやらソーラーパネルのようだ
なるほど電気なんてものが存在しない幕末でも、こいつなら使えるし、そのためのトラックか…
中はバッテリーでも並んでいるのだろうと、跳ね上げ式のトノカバーを開けてみると…
暗闇で何かが動いた?
生き物?
持っていたライトを確認したところで唖然として固まった
「澪(みお)?…」
バッテリーなどはなく、大量の荷物とその隙間に、見覚えのあるセーラー服を着た女の子が横たわっていた
俺は慌てて彼女に息があることを確認、揺り起こした
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