窮鼠

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明朝、早速ボブを尋ね埠頭のコンテナヤードへ いつものように終始無言、ボブの目線を追い、該当のコンテナに歩み寄る コンテナの閂(かんぬき)を抜いて観音開きの扉を開け、懐中電灯で中を照らすと… フラッシュライトの微かな灯りで鈍く輝るキャンディブルーメタリックのボディ やはり車か… フルサイズアメリカンのクラシックカーのようだが、コンパウンドで磨き、粉ワックスで仕上げられた いわゆる、ショーコンディションのボディは、僅かな光りにも鋭く反応し、浮かび上がる印象さえある 近づくと徐々に全貌が見えてくる セダン?いや… 『エルカミーノだ』 思わぬ声に振り向くと、普段は殆ど声を発しないボブがコンテナの戸口にもたれ掛かり立っている 『1959年製、シェビーのインパラがベースのトラックだ 羽がついたトラックなんざ、後にも先にもそいつぐれーだ』 よほど気に入っているのだろう 口角を緩ませ、この車の蘊蓄(うんちく)を語りだした シボレー エルカミーノ 1959年、先年に発売されたフォード ランチェロの対抗馬として、ゼネラルモータースから発売された この当時のアメリカ車は黄金期、飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、テールフィンと呼ばれる羽根のようなデザインが特徴 毎年のようにデザイン変更が行われ、59年はその最盛期 強いアメリカを象徴するように、テールフィンが最も大きく派手になった時だそう 『映画にもなったピンクのキャデラックなんかはお前も知っているだろ?あれが1959年のフラッグシップさ!』 …この男、こんなに饒舌に喋れるのかと苦笑い ほう、ふうん、などと適当に相づちを打ちながら運転席へ ポケットから取り出したキーを差し込み、イグニッションを回す ピロ!! ファフューン… 59年当時を忠実に再現したレトロなインテリアから、凡そ似つかわしくない、超近未来的な光を放ち輝き始め、アナログな空間にデジタル三次元の文字が浮かび上がる Destination:1859/09/30_Ohoku …行き先? これは年号…、1859年?、なんて読む? オーオク…かな とりあえず、親父から云われたのは100マイルになったらボタンを押す…だったな ゆっくりとコンテナから車を出す
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