テノール

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「後は自分でやるからいいよ」 「はい」 頷くと、理香子は次の場所へと向かう。 二階の寝室だ。 俊介のパジャマとバスタオルは綺麗にたたんで脱衣室に用意済みである。 洗面台の鏡も午前中ピカピカに磨いた。 ――手抜かりは無いはず。 クィーンサイズのベッドカバーの乱れをチェックしながら、そんな事を考える彼女。 カバーの色は深い緑。 俊介の好きな色である。 その時、階下からガチャリと音が聞こえた。 彼が風呂からあがり、リビングのガラスドアを開いたのだ。 パタパタとスリッパ音を響かせ、慌てて階段を下った理香子はキッチンへと急ぐ。 今度は黒色の大型冷蔵庫を開き、良く冷えたグラスと瓶ビールを取り出した。 用意して置いたつまみと一緒にトレイに乗せ、リビングへと運ぶ。 ゆったりとした白いソファーでくつろいでいた俊介は、氷のようなグラスを手に持った。 「あなた、お疲れ様でした」 ビールの栓を抜きグラスに注ぐ理香子。 「ああ、疲れたよ」 俊介は黒緑の眼鏡を外して眉間を押さえると、泡のたつグラスをテーブルに置いた。
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