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「あなた、最近帰りが遅いんですね?」
「ああ、厄介な仕事でね……。ほら、最近北海道で震度五強の地震があっただろ?」
「地震?……そう言えば」
「まあ、これ以上は君に言っても解らないと思うが、その地震がきっかけで残業続きなのさ」
「そうですか……」
一日の中で、ほんの数分しかない夫婦の会話が終わる。
「さて、寝るか」
ビールを飲み干してから立ち上がる俊介。
風呂に入りパジャマに着替え、理香子が寝室の扉を開くと、彼はベッドの中で本を読んでいた。
ライトグリーンの表紙カバー。
確か昨日も同じ本を読んでいたと思う。
『何を読んでいるんですか?』と聞いても
『君に教えても解らないだろう?』と返ってくるだろうから聞かない。
鏡台の椅子に腰を降ろし、就寝前の保湿クリームを塗りながら鏡の中の自分を見詰める理香子。
――あれから、何年経ったのだろう?
俊介と出逢いからの月日を指折り数えてみる。
すると、五年前の雨の日、新宿の駅前で途方にくれている自分が浮かんだ。
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