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これは私が片方の耳で聞いてる肉声じゃない!
耳にあてた電話の向こう、すぐ近くから響く声だ。
理香子は耳を澄ませて携帯の奥の声を聞いた。
また、子供の泣き声が聞こえる。
「ママ、風船が飛んで行っちゃったあっ!!」
彼女は人だかりに視線を投げた。
人の輪の中から、昇ってゆく赤い風船。
尚いっそう大きく響く子供の悲鳴のような泣き声。
この場所からでは、子供の姿を確認することは出来ない……が
間違いない!
桜井は泣いている子供の近くにいる!!
あの輪の中にいて、倒れたパンダを見ているのだ!!
携帯から、子供の泣き声はまだ聞こえている。
泣いている子供。
携帯を手に持っているか、耳にあてている男。
彼女は駆け足で人だかりに近付くと、何度も何度も同じキーワードを頭の中で繰り返し、ただ一人の男、桜井を探した。
子供が自分から確認できないということは、きっと彼からも自分は見えないはず。
大丈夫……。
私が今何をしているかなんて、絶対に桜井は気付いてはいない。
以前として通話状態のままである携帯電話。
彼女はそれを、素早く肩にかけたショルダーバッグに忍び入れた。
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