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「すいません、通して下さい!!」
人と人との隙間をくぐり抜け、輪の中心に入ってゆく。
やがて、パンダの頭部分が見えてくると、その横には白いTシャツ姿の青年が横たわっていた。
意識は無いようで、目は閉じられている。
ハンカチなどで青年を扇ぐ数人の女性。
その向こう側に群がる野次馬達。
彼女は、その野次馬達を端から舐めるように見回す。
その時
一度は通り過ぎた理香子の視点が、泣いている子供を視野の隅に捕獲したまま素早く戻された。
子供の横には母親らしい女性がいる。
彼女は、なだめるように子供を抱き締めていた。
━━その左横
瞬間、理香子は両目を大きく見開く。
黒いスラックスに白いワイシャツ姿。
眼鏡をかけた、一見サラリーマン風の男が携帯を耳にあてている。
「……桜井」
理香子は呟くと同時に人混みを掻き分けて、男の背後へと回り込む。
そして男の真後ろに立つと、バックからそっと携帯電話を引き抜いた。
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