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電話の向こうからは、かなりの人数の話し声がざわめきとなって聞こえていた。
もう、子供の泣き声は聞こえない。
それもそのはず、子供は今、母親に抱き上げられて落ち着いたのか、目をこすりながら笑顔さえ見せている。
子供は幼女。
長い髪に大きめの赤いリボンをつけてた。
母親の肩越しに、時折目線が合ってしまうほど近くにいる。
理香子は深く深呼吸をし、男の大きな背中を見上げる。
男は以外と背が高い。
自分より20cm以上は高いだろうか?
見上げないと黒い短髪のうなじが見えない。
桜井、とうとう私は貴方を見付けた。
ゆっくりと指先を伸ばし、男の肩に手を置いた理香子は、同時に言葉を発した。
目の前の桜井。
電話の向こうの桜井。
両者にはっきりと聞こえるように……。
「チェックメイト」
それは、屈辱と共に桜井から二回ほど言い渡された終了の合図だった。
男が振り返る。
理香子は勝ち誇ったように口角を上げた。
だが、心音は真逆。
得体の知れない恐怖に怯え、やたらと鼓動を高鳴らせている。
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