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男と理香子の目線が重なり合う。
男は携帯を耳に当てたまま、彼女を見下ろした。
黒緑眼鏡の奥から細い糸のような目が、少しだけ開かれたような気がする。
理香子が男に尋ねた。
「貴方、桜井さんでしょ?」
「えっ?」
困惑した表情を浮かべる男。
彼女は勝負を決める為に、更に強い口調で詰め寄る。
「答えなさいよ!貴方が桜井でしょっ!?」
その時
「アハハハッ!!」
携帯から、思わず耳を塞ぎたくなるような大きな笑い声が聞こえた。
「えっ!?」
彼女は携帯を耳から遠ざけて、男を見上げる。
男は依然として無言で自分を眺めていた。
次に困惑したのは彼女の方だ。
恐る恐る、もう一度携帯を耳に当ててみる。
「ククク……」
さっきの爆笑とは違って、今度は圧し殺したような笑い声。
間違いない。
これは桜井の声だ。
だが、目の前の男は笑っていない。
携帯を耳に当ててはいるものの、一言の声も発してはいないのだ。
「……あの」
戸惑うように、やっと男の口から声が発せられる。
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