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チャンス
そう……。確かに、桜井は私にお金を取り戻せるチャンスを三回くれた。
そして今日が二回目。
だけど、本当にこんな人込みの中で、顔も知らない桜井を探すことが出来るのだろうか?
――コマ劇場前。
足を止めて回りを見渡す彼女。
どこに視界を振っても、人、人、人。
平日なのに
昼間なのに
どこからか湧き出て来る蟻の大群の如く、人間は沢山いる。
そして、こうして立っているだけでも、その無数の蟻達は自分の横を通り過ぎて行くのだ。
その時、桜井の声が聞こえた。
「さあ、そろそろすれ違うぞ。ちなみに俺はグレーのシャツを着ている。見付けられるかな?」
通話が切られる。
「…………」
携帯を静かに閉じる理香子。
今は余計なことを考えてる暇はない。
この人波の向こうから、奴は確実にやって来るのだ。
彼女はじっと前方に目を凝らす。
桜井は今、一つのヒントをくれた。
グレーのシャツ。
Tシャツ?
ワイシャツ?
それとも……?
考え込んでいる隙に、グレーっぽいTシャツを着た男が横を通過してゆく。
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