接点━2

16/34
前へ
/2447ページ
次へ
「あっ、ちょっと待って!!」 理香子は駆け足で彼を追い掛け、腕を掴んだ。 「貴方、桜井さんじゃないですか?」 振り返る男に尋ねる。 左右に首を振り「違う」と答える男。 その横を、またグレーのシャツを着た男が通り過ぎた。 「すみませんでした」 Tシャツの男に頭を下げて、今度はグレーのワイシャツを追いかける。 もう、理香子に考えている余裕など無い。 とにかく視界に捉えた全ての該当者に声を掛けまくり、桜井を探す。 今日、彼を見付けることができなかったら、チャンスは後一回しかないのだ。 見知らぬ男の腕を何本も掴み、彼女は祈るように尋ねる。 「貴方、桜井さんじゃないですか?」 まるでそれは、『私を○万円で買いませんか?』 そんな言葉と同じに聞こえてしょうがない。 だって、そうでしょ? 何人もの男を狙って、こんな昼間から声を掛けている私。 人から見たら、男あさりをしているようにしか見えない。 ━━それから、どの位の時間が経過したのだろう? 「違うよ、人違いじゃない?」 何十人目かの男にかぶりを振られた時、彼女の目頭に薄っすらと光ったもの……。 それは恥辱の涙だった。
/2447ページ

最初のコメントを投稿しよう!

499人が本棚に入れています
本棚に追加