499人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっ、ちょっと待って!!」
理香子は駆け足で彼を追い掛け、腕を掴んだ。
「貴方、桜井さんじゃないですか?」
振り返る男に尋ねる。
左右に首を振り「違う」と答える男。
その横を、またグレーのシャツを着た男が通り過ぎた。
「すみませんでした」
Tシャツの男に頭を下げて、今度はグレーのワイシャツを追いかける。
もう、理香子に考えている余裕など無い。
とにかく視界に捉えた全ての該当者に声を掛けまくり、桜井を探す。
今日、彼を見付けることができなかったら、チャンスは後一回しかないのだ。
見知らぬ男の腕を何本も掴み、彼女は祈るように尋ねる。
「貴方、桜井さんじゃないですか?」
まるでそれは、『私を○万円で買いませんか?』
そんな言葉と同じに聞こえてしょうがない。
だって、そうでしょ?
何人もの男を狙って、こんな昼間から声を掛けている私。
人から見たら、男あさりをしているようにしか見えない。
━━それから、どの位の時間が経過したのだろう?
「違うよ、人違いじゃない?」
何十人目かの男にかぶりを振られた時、彼女の目頭に薄っすらと光ったもの……。
それは恥辱の涙だった。
最初のコメントを投稿しよう!