499人が本棚に入れています
本棚に追加
フラつく足取りでコマ劇場前の段差に腰を降ろした理香子は、そのまま両手で頭を抱え込んだ。
なぜ?
どうして?
なんで桜井は見付からないの!?
心が悲鳴をあげた。
今にも零れ落ちそうな涙を拭い、垂れ下がった前髪をかきあげながら、もう一度、周囲を見渡してみる。
すると、道行く男性、全てがグレーのシャツを着ているように見えた。
全部の人間が桜井で、こちらを向いてあざ笑っているように思える。
その時、手のひらに振動を感じ、彼女は携帯を開いた。
――非通知表示。桜井からだ。
理香子は力無く通話を押して携帯を耳に当てた。
予想通り……人を小バカにしたようなテノールが聞こえる。
「やあ奥さん。必死に探したのに残念だったな」
「桜井さん、貴方……人をバカにするのにも程があるわ」
「は?なんのことだ?」
「『なんのことだ?』じゃないわ!貴方、本当に私とすれ違った!?」
「ああ、ちゃんとすれ違ってやったぜ」
最初のコメントを投稿しよう!