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「…………」
「…………」
音が止まり、理香子と桜井の間に流れる静寂の数秒間。
やがて人は、また前方を見て歩き出す。
耳に街の音が戻ると同時に、桜井はこう言った。
「前にも言ったが、あんたは金持ちだろ?
三百万ぽっちに、なぜそんなにこだわる?
『詐欺に騙されました』と旦那に全て話して謝罪すれば、笑って許して貰える問題じゃないのか?」
「……そんなに甘い問題じゃない!何も知らないくせに、知ったようなこと言わないでよっ!!」
「知ったようなことか……。だけど、これだけは言える。詐欺ってのは騙す方も悪いが、騙される方のがもっと悪いんだぜ!
要は、あんたがバカだったってだけの話だ」
「まあ、ずいぶんと自分を正当化するのが上手ね。
そうやって貴方に騙されて泣いてる人が何人もいるって言うのに!貴方なんか人間のクズだわ!
警察に捕まってしまえばいいっ!!」
「ふん!それもいいかもな、だけど俺が捕まったら金はあんたの元には戻らないぜ。
なんせ奥さんは、被害届も出せないほど旦那に怯えてるセレブだもんな?」
怯えてる?
――そう、確かに私は怯えている。
だって当然でしょ?
主人は、俊介は……。
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