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レンタカーを借りて、夫の死体を山に埋める。
これが妥当な処理方法だろう。
だが、自分の力だけでは夫を持ち上げてトランクに乗せる事など不可能だ。
なら、どうする?
私はアーケード商店街の中央で足を止めて人差し指を軽く噛んだ。
切断……か?
想像しただけでも吐き気のする考えが脳裏を霞める。
だが、現状で運べない以上、各パーツをバラバラにして小分けに運ぶしかないのだ。
その時、春人が『あっ!』と声をあげて私の手を振り払った。
見ると、彼は玩具屋に一目散に駆けて行く。
そして店頭に並んだ新幹線の玩具を手に取った。
ゆっくりと歩み寄る私。
『ハルは電車が好きなの?』
そう聞くと、彼は遠慮がちにコクンと頷いた。
考えてみれば、この子を産んでから今までずっと生活苦の中にいた私には、彼に対して親らしい事をした記憶がない。
新幹線の玩具を眺めて瞳を輝かせる春人。
『その玩具をかしなさい』
私はバッグから財布を取り出すと店内へと足を進める。
レジで玩具を購入していると、春人が後ろから白いワンピースの裾を引っ張った。
『いいの?』
お金を払い終えた私は振り返って、箱に入った商品を彼に手渡す。
『ハル、母さんね……今まであなたが電車が好きな事さえ知らなかった。ごめんね』
こんな親の元に産まれた我が子が可哀想で
ふびんで……。涙が溢れる。
私の最大の過ちは、夫と結婚した事ではなく
この子を産んでしまった事なのだ。
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