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電車から降りて歩く事少々、間もなく一面、薄紅色の景色が私達を迎えてくれた。
『うわあ!! 凄い!!』
満開に咲き誇る桜の下で春人は無邪気にはしゃぐ。私はそんな彼に目を細めて微笑んだ。
『本当に綺麗ね……』
頭の中は
これからどうしよう?
いつまで経っても、そんな言葉の堂々巡りだ。
その時、ふとあるものが目に入り私は足を止めた。
桜並木の終点に見える学校のような建物。
歩み寄ると、正門の石柱に児童養護施設と刻まれた文字が見えた。
その下に施設の名称。
児童……養護……施設。
養護施設といえば、身よりのない子供達や、親の事情により養育が困難になった子供を預かってくれる場所。
そうか
その手があった!
私は瞬時の閃きと共に、正門奥にある無機質な四角い建物を見上げた。
ここなら自分が死体を処理してる間、春人を預かってくれる。
だけど身元を知られたくないし、ましてや預ける事情などは間違っても言えない。
どうしよう?
桜の木に背をあてて暫くの間、考え込む私。
そして
悩んだ末に導き出された結論は
置き去り……だった。
この建物の前に、あの子を置き去りにすれば、きっと施設の人が気付いて預かってくれる。
『春人!』
私は、桜の花弁とたわむれている彼を呼んでリュックの中を確認した。
大丈夫
身元を証明するものは何もない。
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