テノール

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理香子は恐る恐る振り向く。 「お前、ちゃんとサイドテーブルの上を拭いたか!?」 「えっ、はい、確か昨日……」 俊介の眉根が引きつるように歪む。 「昨日だと、今日は!?」 人差し指の腹で僅かなホコリを拭った俊介は、鬼の形相で理香子に歩み寄った。 「今日…きょう…は」 舌が震えて呂律が回らない。 いや、舌だけではなく彼女の全身が小刻みに震え出した。 ――ああ……始まる。 始まってしまう。 地獄の時間が!! 「この出来損ないがっ!!!」 理香子のパジャマの胸元を掴み上げ、俊介は片手を大きく振り翳(かざ)す。 ――――そう 私は幸せ ただ一つを除いては……。
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