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――9時30分、家中の掃除を済ませた理香子は街の銀行へと向かう。
外からでも、ATMの前には数人の列が伺える。
硝子張りの自動扉を開き一番後方に並ぶと、彼女はショルダーバッグから黒革の財布と白いメモ用紙を取り出した。
メモには昨日、桜井に聞いた振り込み先が記載してある。
その紙を握り締めて順番を待つ理香子。
だが自分の番が来た時、急な不安感が脳裏を駆け抜けた。
真実かどうかも解らないこの攻略法に、二万円も支払う価値があるのだろうか?
「…………」
そんな考えが、財布を開こうとした指先を止める。
次の瞬間、理香子は後方に順番を譲ると、逃げるように銀行から外に出た。
バックに財布をしまい、入れ替わりに携帯を取り出して攻略会社に連絡を入れる。
「はい、お電話有り難うございます。
(株)GETです」
耳に届くテノール。この声は桜井だ。
「あの、村上ですけど……」
「ああ、村上さん。どうなさいました?」
「あの、今二万円を振り込もうとしたんですが、やっぱりやめます」
「それは構いませんよ。強制ではないですから……。
ただ勿体ないですね、これから貴女はツキに左右されず、間違いなく勝つ事ができるのに……」
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