テノール

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慌ててハルの弟分、橘隼人(タチバナハヤト)(十九歳)が二人の間に入った。 「もう、毎日喧嘩するのやめて下さいっすよ!!」 そんな光景を溜め息まじりに眺めるハルを尻目に、井上がポツリと呟く。 「俺だってこんなチンケな詐欺なんかやりたくねーよ」 井上に顔を向ける隼人。 井上は、あぐらをかいて床に座り込んだ。 「政権交代する前はさあ~政治家達に目ん玉が飛び出るほどの大金を稼がせて貰ったのによ、今は駄目だよ。みーんな大人しくなっちまった」 「その金を全部ギャンブルで使い込んじまったから、こんなザマなのさ!」 そう言い捨て、亜紀は襖をピシャリと閉める。 「はあ~」と、肩を落とす井上。 金髪を掻き上げながら隼人が聞く。 「兄貴達が組んだ仕事って、どんな詐欺だったんすか?」 俯き加減な井上は、僅かな笑みを口元に濁した。 「政治家や権力者御用達の架空会社ブローカーさ」 「架空会社ブローカー? あーなんか聞いた事あるっすけど何すか、それ?」 ハルが顔を上げる。 「要は権力者達のポケットに闇の金を入れてやる仕事だ」 「闇の金?」 隼人は少しの間考えた後 「ちょっと良く解らないっすね~」と首を捻った。
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