心。

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「…ゆう、おかえり。」 当然のような、暗い部屋の中に鉄の匂いと生暖かさ。 ベッドに近づいて、小さな明かりをつけた。 「どこにいたの?」 視界が現実を知るには時間がかかった。 それに、口が縫い付けられたかのように開かない。 「こ…」 「どこにいたのって聞いてる」 君の隣に座れば、少しだけ軋んだベッド。 僕の目に映った君の目は、怒りと哀しみ、狂気の混じった色をしていた。 「…こた、ごめ」 身体に走った痛み。 右頬が熱を持った。 君の手のひらも、同じだろうけど。 「許さない。 どこ行ってたんだよ。 言えないとこ?恋人の俺に。」 「ちが…」 ただ、謝ることしかできない。 否定もできない。 本当に言えないから。 「ゆう、そんなに俺のこと嫌い? 俺…なんかしたかな…」 顔を背けて、どこか遠くを見ていた君。 大好きだけど。 好きにならなければよかった。 怖い、辛い。そんなこと、君で感じたくなかったから。 優しく包んだ。 身体の傷が触れて痛まないように。 「…ごめん、ゆう。 痛かった?」 赤い手で、頬を撫でられる。 涙を堪えるのが必死で、答えられない。 痛くないよ。大丈夫だよって。 言いたいのに。 「ゆう、好きだよ。」 僕も好きだから、安心して。
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