第一章 物語は走りだし、主役は逃走する

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「……」  ここにきて1人の顔が浮かんでしまった。  親友にして変人。いい年をして、他人の家を転々とする住所不定のフリーター。  よく家に泊めているし、なんだか借金取りっぽいのに一緒に追われた記憶もある。 ヤバい。あり得すぎる。  結城は、右手で頭を抱え、何やらぶつぶつと呟くと、ブロンドの男を見据えた。 「いいですよ」  そして、スウェット姿の自分を指差す。「このままだと失礼だと思うので、着替えても?」  その心は『ヤバい、取り敢えず逃げよ』である。  ブロンドの男は、訝しげな表情を浮かべる。 「名前は聞かないので?」 「ハハッ。多分聞いてもわからないでしょう? 心当たりがまるでないんで」  苦し紛れにそう答えると、ブロンドの男は納得の表情を浮かべた。 納得するのか、結構無理があるのに。 「じゃあ、オレたちは下で待ってます」  結城の心の声をよそに、ブロンドの男はそう言い、ドアを閉めた。  全て閉まったことを確認すると、結城はドアに耳を当てた。  2人の声が聞こえてくる。 『案外、早かったな』  おそらくこれは茶髪の男の声。 『うーん、まあ、力づくじゃなくてよかったよ』 『何が何でも。って言われてるしな』 『全く、人使い粗いよー』 ……。 「……うん、逃げよう」  結城はそう呟き、急いで部屋に駆け込んだ。  だから見ていない彼は知らない。外の2人が声に出さず「予定通り」と口を動かし、頷いていたことなんて。
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