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「……」
ここにきて1人の顔が浮かんでしまった。
親友にして変人。いい年をして、他人の家を転々とする住所不定のフリーター。
よく家に泊めているし、なんだか借金取りっぽいのに一緒に追われた記憶もある。
ヤバい。あり得すぎる。
結城は、右手で頭を抱え、何やらぶつぶつと呟くと、ブロンドの男を見据えた。
「いいですよ」
そして、スウェット姿の自分を指差す。「このままだと失礼だと思うので、着替えても?」
その心は『ヤバい、取り敢えず逃げよ』である。
ブロンドの男は、訝しげな表情を浮かべる。
「名前は聞かないので?」
「ハハッ。多分聞いてもわからないでしょう? 心当たりがまるでないんで」
苦し紛れにそう答えると、ブロンドの男は納得の表情を浮かべた。
納得するのか、結構無理があるのに。
「じゃあ、オレたちは下で待ってます」
結城の心の声をよそに、ブロンドの男はそう言い、ドアを閉めた。
全て閉まったことを確認すると、結城はドアに耳を当てた。
2人の声が聞こえてくる。
『案外、早かったな』
おそらくこれは茶髪の男の声。
『うーん、まあ、力づくじゃなくてよかったよ』
『何が何でも。って言われてるしな』
『全く、人使い粗いよー』
……。
「……うん、逃げよう」
結城はそう呟き、急いで部屋に駆け込んだ。
だから見ていない彼は知らない。外の2人が声に出さず「予定通り」と口を動かし、頷いていたことなんて。
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