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部屋に戻った結城は、落ち着くために深呼吸をすると、机の上に置いてあった携帯に手を伸ばした。
逃走に失敗したときを考え、急いである人物の名前を探し、メールを打つ。
先程脳裏に浮かんだ、結城の中では今回の諸悪の根源。
流離いのフリーター、飯田シュウにである。
電話でもいいが、どう考えても、彼がこの時間に起きているように思えない。
何故叔父や姉じゃないのか。
理由は単純、なにか物凄く文句を言ってやりたい。そしてなにより、携帯の電話帳で一番早く名前が出てくるのが飯田シュウであったから。
それに飯田シュウは頭の回るやつであり、叔父や姉と軽く面識があるので彼伝いに連絡が行く、多分おそらく……いや、きっと。
結城はメールを送信し終えると、スウェットから着なれたパーカー、黒いパンツに着替え、クローゼットから斜めがけのバックとスニーカーを取り出した。
斜めがけバッグに携帯、財布、一応机の上にあった食べかけの携帯食料を詰め込む。何故かナイフがはいっていたが、出すのも面倒なのでそのままにした。
室内でスニーカーを履いた結城は、静かに窓を開けた。
瞬時に冷ややかな朝の空気に包まれる。
少し身ぶるいをし、窓のサッシに足をかけ、下に目をやる。
結城の視線の先には、アパートとその隣の家の敷地を隔てる、幅15センチメートルほどのブロック塀。
当然、窓が低い位置にあるとはいえ、その幅は結城の位置から見れば、数センチメートルにも及ばない。
「いつ見ても怖いな……っとぅ揺れるっ」
呟きながらも、結城は躊躇もせずに跳び、危なげに着地する。そのまま、塀の上を走り、2人組が待つ道路の反対側へ出ることに成功した。
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