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その一本道が左に折れる手前、唯一日の当たる緑の壁が見える。
そして、その壁から突き出るも、主張しない木製の看板、服の絵。
今は大量に金を持っているが、値段の手ごろな場所は知っておいた方が良い。
「高くない店だし、多めに買っておいた方が良いとは思う」
九条は足を止め振り向く。そして、来た道を指差す。「俺は本屋に行ってる」
「……結構ちゃんとした店じゃね?」
ユウトが窓を覗き込みながら不安げに言う。確かに、職人の腕もバラナルでトップで良い仕事をすると言われる店ではある。
場所だけに、客足はまばらだが。
「ま、入ればわかる」
九条はユウトの背を押し、店に押し込んだ。
最小限。いやそれよりも少ないかもしれない数の服の並ぶ店内。レジカウンターを前に老父が足を組み、目を瞑って座っていた。
老父は九条らに気付くと、片目を開け、ユウトを一瞥し、九条に目を向ける。九条は微笑み、それを見た老父は溜息をつきながら頷き、レジカウンターを指で2回ほど叩いた。
コンッコンッ。そんな音が周囲に吸収されずに軽やかに響く。
「うをっ?!」
ユウトが驚きの声を上げる。無理もない。
カウンターを叩いた直後、店の奥から棚が出、布のこすれ合う音と共に服が飛び出し、靴もカバンも出てきた棚に綺麗に収まり、一気に店の雰囲気が変わったのだから。
しかも、出てきた商品は、客――ユウトの好み仕様である。
しかし、サイズはともかく、その場しのぎのサイズの合わないシャツや、パンツ。間に合わせで黒羽が能力で作った靴。そこからどうしてユウトの好みが分かるのか。よく見れば、森で会った時に着ていた服装と似たものもある。
その辺はその道のプロと割り切るほか無い。聞いても「なんとなく」とちゃかされて終わりである。
「……すげ」
「じゃ、後で。大通りに出るところで」
呆然とするユウトの肩をたたき、九条は本屋へと向かった。
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