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今言うのもなんなのだが、走ることに関しては自信がある。現在も体力維持のために毎朝走っているし、小学生のころから10年間サッカーを続けていたからである。
ただ、終わりはなんとも冴えないものだったが。
「……ッ」
嫌な感情が頭をめぐり、結城は溜息をついた。
そんなことよりだ、どうやって逃げるかを考えなくてはならない。
結城は、過ぎ去る景色を横目に考える。
隠れやすく、地の利が更にある場所……。
結城の脳裏に、近くの森が浮かぶ。
森とは、近くにある森のこと(そのまんまだが)で、結城が自主練習でよく使っていた場所である。うっそうと木が茂り、人目に付かない場所だ。
そして、なにより見通しが利かない。
悪く言えば犯罪スポットだ、痴漢とかひったくりの類の。
だが、身を隠すのには最適。
そもそも、こんなにしてまで逃げる必要があったのだろうか。
ふと、そんな疑問を持った結城だが、同時に『逃げなきゃいけない』という意味不明な焦燥感に駆られ、ごく自然に、だがなにとなく不自然に森へと方向を変え、走った。
いくつかの店の前を通り抜け、しばらく走ると、トンネルが見えてくる。
只、1メートルほどの長さしかないこれを、トンネルと呼んでよいのかいささか疑問を持つ。トンネルよりも門に近い。
そんな幾度も考えたことは結城の頭にはすでになく、早く逃げたい、という思いで思考を満たし、彼は迷うことなく、トンネルに足を踏み入れた。
「……っ!」
一瞬、結城の目に映る景色が色を失う。
その瞬間というのは、周りの人間からはこう見えていた。
結城が消えた。
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