第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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「これか、やっぱり」  九条は一冊の本を手に呟いた。  手にしているのは魔術の全てを集約した一冊。の複製版の簡略版の初歩の抜粋+大陸の文化、法律を簡単にまとめた『アレス・グラン編/BUNCH精選魔術総合書(初級編第3版)』である。中級校の生徒に愛用されている。参考書だ。  九条は読み物として読んだことはあるが、理解に重きを置くものではダントツである。図や表も的確で語り口も堅くはない。  方陣式の欄が変更されたと耳にしていたため、その欄を見ていたわけだが、もちろん、九条が使うわけではない。ユウト用である。  本を閉じ、ぐるりと視線を巡らせる。  たまに掘り出し物があるため何度か来たことはあるが、相変わらず品揃えの良いとはいえず、最小限の照明で薄暗く、少しかびた臭いがする店内。  九条はある一点で視線を止め、足をそこへ向けた。 「……置いてるのか」  そう呟き、持っていた本を棚に置くと、その一冊を手に取り、内容を軽く確かめるようにぱらぱらとめくる。そして、何度か軽く頷き。元の場所へと戻した。  背表紙には『種族たち/カー著』学校や中心街の図書館には置いてはあるが、マニアックな本である。本屋にはなかなか置かれない。   廃番になったと思っていたほどである。  棚に置いていた『BUNCH』をまた手に取る。  と、何かに気付き、ポケットへおもむろに手を突っ込む。  出てきたのは、小さな箱。携帯、いや、携帯通話機。  もともと、何かに方陣式を刻み互いにサインをすることで、その2人間でのみ使用可能であった簡略式念話、それを応用した代物。  吸収型、変換型、時限型など、方陣式にも種類があるわけで、簡略式念話は吸収型と変換型の併用である。  更にややこしいもので、吸収型からも色々と枝分かれし、専門書には、吸収型二段作用多重軌などなど、全て合わせると気が遠くなるほどの数がある。そこまで理解している者は少ない。
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