第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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[正直な話、覇王様の推薦でも難しいそうだ]  でしょうね。出そうになった言葉を飲み込み次を待つ。それだけならば、かけてこないはずなのだ。 [取り敢えず会って決めたいらしい] 「……受け取りついでに連れて来い。そういうことですね?」  九条は本屋を出、服屋への一本道へと歩き出す。 [ああ。午前は会議が入っている。来る時間帯は変えなくて良い]  通話機の向こう、城ノ内の声が苦々しく言う。  代表はまた渋ったのか。九条は苦笑いを浮かべた。城ノ内の表情を、良くも悪くも崩すことができるのは代表しかいない。ある意味天才だ。  いや、天才的なのはそれだけではないのだが。 「分かりました。今日は予定が詰まっているので、その方が助かりますし……ん」  視界に人だかりが映る。  ユウトを待たせている場所ではないか。九条は歩くスピードを速める。 [どうした] 「ああ、なんだかうちの《異界の旅人》君が面倒事に巻き込まれているようで……切りま」  突然隣に現れた光に九条は目を細める。よく見ると方陣式。それは人だかりの中心へと向かい、その後を追うように、赤毛の少女が走って行った。 ――【張波(トモハ)】の方陣式。  咄嗟に方陣式を読み、足を止める。 「……どうやら、俺のお仲間がらみですよ。大したことは無いでしょうが」  覚えているかわからないが、【張波】は一度オヤジの元へ行く際、狼をはじくために使っている。あの時はデコピンだったが、デコピン程度の衝撃を増幅するならば、方陣式は要らない。  つまり、どうやら彼女は手加減なしでいくようだ。 [……戦専生徒。いつものことだろう]  通話機の向こう、城ノ内が淡々と言う。 「羽崎が突っ込んで行きました。あの様子だと、一宮。多分そちらには報告は行かないですね」 [わかった。九条、お前に頼む。……時間だ。そろそろ切らせてもらう] 「ええ、ではま……切れてる」  だから、“冷たい”とか言われるのだ。九条は通話機をしまい、いつの間にやら散らばり始めた人だかりの中心へと向かった。
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