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――街中の主役――
「本当に、とんでもない所に来たよな……」
「カッカァ」
「こっち来てから、俺はなんだかんだ異世界を満喫してる……気がする」
「アァ」
「……良いのかねえ」
「カッカァァ?」
「早め慣れて知らなきゃ調べらんないんだけど……でもやっぱり、危機感というかなんかそういうのが全く芽生えない。つーか俺はそういう調査とか研究とかできるのかっていう話でさ。姉貴がアレだから、やらないことにはわからないんだけど……ああ、まじ不安になってきた……」
「ッカァカカ?!」
「ぁでっ!!」
キリヤが人だかりに気づく少し前。
大通りと路地が交わる場所。人気のない路地側の壁にもたれ、買ったばかりの服に身を包み、紙袋を両腕に下げ、キリヤを待つのは結城ユウト。
さまざまな服で着飾った通行人の流れに目をやり、思考という名の独り言の最中、彼は左肩にとまる黒羽に頭をつつかれた。
結城は、つつかれた場所を擦りながら、放っておけばマイナスの方向に進んだであろう思考を中断する。
現在の服装は、ワイシャツにパーカー……にちかいもの、動きやすいパンツ。
店では、いつもの定番スタイルを何着かと、下着類。意外にもフレンドリーだった老父と黒羽に勧められるがままに、ジャケットやらハットやらを買うはめになった。
途中、老父に「お主、ふっつうじゃのお、服で変わるぞ」なんて嬉しそうに笑われた。
ほめられたのだろうが、複雑である。
日本と金の価値が近いようで、使いすぎたかもしれない。と結城は思う。
何だかんだでサービスしてもらった上で、60,000オークオーバー。サービス前は75,000を超えていた。
そもそも、値段が付いていなかった。それが不思議でならないのだが。
「カガグッカァカ」
金持った嫌な奴には高くつけるらしいぜェ。と、黒羽は翼を広げ、首を振る。
さらっと結城の心を読み、カラスの姿で妙に人間じみた動きをする彼は、かなり奇妙である。
とにかく、値段も安くしてもらい、小物もつけてくれたということは、凄く得をしたというわけではある。
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