第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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 結城は、唯一あちらから持ってきて無事だったカバンから、チェーンの着いた細長い銀色のプレートをとりだす。  神坂はこれを“個人紙票”と言っていたが、実際にそう呼ぶものは少なく、“パーソナルカード”又は“個人カード”と呼ばれている。  名の通り、身分証明はもちろん、キャッシュカードやクレジットカードのような機能も含む万能カードである。  キリヤが、“個人紙票”などと使うのは、カードが紙だった時代から知ってる老人。なんて言っていたのだが、結城の頭には疑問符が浮かぶ。  神坂ルイは、どう見ても老人ではない。  そういえば、渡された時「僕のもあるんだ」とシュウが見せてきた。  取り出す際、1人1枚のはずのそれが、彼のポケットから数枚、音を立てて落ちる、という事故が起きた。  それを見、結城の脳裏には瞬時に、アンダーソンの「偽造パスポートでもなんでもお造りできますよ」という言葉が浮かんだ。が、それに関しては考えないことにしている。  なんでもなにも、見るからに100%そうであるため、だ。 「……これに、100万だっけ」  結城は眉を顰める。 「カッカァクカァガ?(ちょうど良いだろォ?) グガァカ(家具揃えれば)」 「いや、部屋は6畳。シェアハウス的なものらしいから調理器具はいらないだろ? 家具も少しいいもの買っても多分余る。 これは、今日の分、取り敢えず渡されたものだろ? どう使うか」  別に、使うことを気にしているわけではない。貰った大金を持って歩くことが億劫なのだ。黒羽にそれを伝えると、黒羽は「ワケが分からない」と言いたげな仕草をする。
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