第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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「……斬れたじゃねェか」  なんだよいきなり。黒羽はガシガシと頭をかく。 「贅沢言うなよ、邪の手のモノが」  少年は口角を上げて言う。  見た目によらず、声変わりを終えたような低い声。  意外に年が近いのかもしれない、結城は思った。  だが彼の、中学生の模範的な髪型のせいで、“坊ちゃんの髪、染めてみました”感が拭えない。  どう表現しても、最終的には快活な青少年である。 「……ちげェんだけど」  黒羽は冷や汗を浮かべたまま、返す。 「嘘だな」 「……はァ?」 「今ので斬れたってことは、その類。でも、(めい)魂魄(こんぱく)じゃあない。……仮にそうじゃなくても、神社の名の下に拘束することになってんだよ。良いから大人しくソコのと捕まれってば」  少年は、指差した。 「えっ?」  完全に観客の1人のようになっていた結城は、いきなりの抜擢に間の抜けた声を上げる。  どうやら天は、彼を観客のままにしておいてはくれないらしい。  困ったことに。  黒羽は、立てないままでいる結城に視線を送り、下くちびるを突き出し、面倒臭さを前面に押し出す。  言葉で言うなら「やっべェ、超面倒くせェ」だ。  だが、只の変顔にしか見えない。  尚も動けない結城を確認し、「ま、暇つぶしには良いか」と呟き、口を開いた。 「いやァ。今からさ、ケチ男ッつーケチ臭ェヤツと行かなきゃいけねェ場所があんだよ。見逃してくんねェかなァ」  申し訳なさそうに言う。反して、その瞳はギラリとひかり、少年をにらんだ。 「応じると思ってんの?」 「思ッてたら?」  どうなんのかねェ。腕まくりしながら黒羽が言う。ヤル気満々である。  もはや、黒羽の方がチンピラだ。  そんなチンピラなど無視し、少年は口を開く。 「それは甘いって。でもって」  少年は木を握る手に力を込め、構える。 「それなら、なにがなんでも捕まえる」  紫の瞳に光が宿る。
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