758人が本棚に入れています
本棚に追加
/882ページ
「……斬れたじゃねェか」
なんだよいきなり。黒羽はガシガシと頭をかく。
「贅沢言うなよ、邪の手のモノが」
少年は口角を上げて言う。
見た目によらず、声変わりを終えたような低い声。
意外に年が近いのかもしれない、結城は思った。
だが彼の、中学生の模範的な髪型のせいで、“坊ちゃんの髪、染めてみました”感が拭えない。
どう表現しても、最終的には快活な青少年である。
「……ちげェんだけど」
黒羽は冷や汗を浮かべたまま、返す。
「嘘だな」
「……はァ?」
「今ので斬れたってことは、その類。でも、迷の魂魄じゃあない。……仮にそうじゃなくても、神社の名の下に拘束することになってんだよ。良いから大人しくソコのと捕まれってば」
少年は、指差した。
「えっ?」
完全に観客の1人のようになっていた結城は、いきなりの抜擢に間の抜けた声を上げる。
どうやら天は、彼を観客のままにしておいてはくれないらしい。
困ったことに。
黒羽は、立てないままでいる結城に視線を送り、下くちびるを突き出し、面倒臭さを前面に押し出す。
言葉で言うなら「やっべェ、超面倒くせェ」だ。
だが、只の変顔にしか見えない。
尚も動けない結城を確認し、「ま、暇つぶしには良いか」と呟き、口を開いた。
「いやァ。今からさ、ケチ男ッつーケチ臭ェヤツと行かなきゃいけねェ場所があんだよ。見逃してくんねェかなァ」
申し訳なさそうに言う。反して、その瞳はギラリとひかり、少年をにらんだ。
「応じると思ってんの?」
「思ッてたら?」
どうなんのかねェ。腕まくりしながら黒羽が言う。ヤル気満々である。
もはや、黒羽の方がチンピラだ。
そんなチンピラなど無視し、少年は口を開く。
「それは甘いって。でもって」
少年は木を握る手に力を込め、構える。
「それなら、なにがなんでも捕まえる」
紫の瞳に光が宿る。
最初のコメントを投稿しよう!