第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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 2人は互いを睨む。吹き込んだ風は、塵を巻き上げる。  2人は動かない。異様な雰囲気に、観衆は息をのむ。  2人は未だ動かない。塵に目を細めながらも、結城は生唾を飲み込む。  風が、止んだ。  2人はほぼ同時に息を吐き、踏み込んだ。  地面を蹴る。  彼らに押された空気が波立ち、微かな風を起こす。  と、結城はここであることに気付く。  いつのまにやら2人の頭上に、輝く模様の様なものが浮かんでいたのだ。そして、「どいて」と観衆の中から凛とした声。  結城はそちらに精一杯顔を向ける。  黒羽も少年も突然現れたそれに気付き、肉薄しながらもそちらに意識を向ける。  人込みの中から、否、頭上から赤い髪の少女が降ってきた。  彼女が手に持つのは、彼女の背丈ほどある金の大きな杖。その杖の上部には、三角のパネルが組み合わさってできた箱が付いていた。  箱は金平糖を思わせる星型、全体的な形は、いつか土産店で見たかんざし。  彼女は、髪をなびかせ模様に向かう。  その杖を振りかぶる。  そして、目線が輝く模様辺りに到達する直前、模様に思いきり杖を叩きつけた。 「【張波】!!」  これといった変化は見た目ではなかった。 だが、真下に居た少年はバチンッという音と共に殴られたような反応を見せ、地面に叩きつけられる。  もちろん、真下に居ても黒羽には何の変化もない。  結城は胸をなでおろした。  目の前の光景は、どう見ても異常だらけだが、いつも通りである。  異常を無視できるようになってしまった辺り、大分慣れてきたと言うべきか。  無理に無視しているのかもしれないが。  一方、衝撃的な登場をした少女は地面に降り立つ。 「っと」  重力を感じさせない、そんな柔らかな着地。  かと思えば、華麗にターン。集まっていた観衆へ、ステージの上に立つ演者のように、短めのスカートの裾をつまみ、おじきをする。  観衆はその洗練された動きに、目を奪われた。  もちろん、結城も例外ではない。  その場の主役が一瞬にして少女に変わった。
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