第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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******  居住先は、街から少し離れた、ちょっとした丘の上のちょっとした林の前にあった。  その敷地の入口をはいると、比較的平らな岩を重ねた階段が3段ほど。その先10mほど砂利が敷かれ、整えられた小道。  その小道を覆うように、鉄か何かの骨組みに誘導された蔓植物がアーチを作る。  そんな緑のトンネルを抜けると見えてくる、白の壁と茶の壁が混在する、つぎはぎ、3階建て。  その外観には植物がその蔓を這わせ、小さな蝶たちが、太陽へと首を伸ばす花々の周りを舞う。 「住人が増えるごとに増築していったらしいの」  年季を感じる古めかしい壁と真新しい壁とが混在するようすを目の当たりにすれば、羽崎が言うことも容易に納得できた。  そして、1階より少々高い場所に離れのように部屋があり、それは家の中、2階に向かう階段の途中に繋がっていた。位置としては、中2階となる。  『丘の上に部屋作って家に繋げた』という説明がしっくりくる。ともかく、丘という地形をそのまま生かした家だ、というわけだ。  聞けば、魔法は一切使われていないらしい。 「使い魔……神に遣えし鳥獣、ねえ。そういえば、昔、母さんが読んでくれた絵本に出てきたかも」  広く取られたダイニング。黒羽の説明を受けた羽崎は、テーブルに両肘をつき、懐かしそうに呟く。 「かみさまのつかいのおおかみさんは、ゆうしゃさまに~……って話」  知ってる? と、向かいの席に座るキリヤに問う。 「いや、知らない」キリヤは、答えた。 「確か、狼は面倒臭がりで、神様に頼まれた勇者様の護衛を断っちゃうのよ。でも、勇者様の見えないところで手助けをするの。……悲しい話だった気がする」  羽崎は儚げに小さく息を吐く。  “面倒臭がり”に反応した結城とキリヤは、キッチンとダイニングの間、カウンター前の椅子、座面に足を置き背もたれに腰かけた、お世辞にも行儀が良いといえるわけがない黒羽に視線をやる。  彼の頬には絆創膏。回復には少々時間がかかるらしい。
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